洋蘭というと、皆さん熱帯植物という先入観が先に立つようです。確かに、熱帯圏に自生地が集中しています。しかしほとんどが標高の高い山の中腹辺りに自生しています。いわゆる雲霧林と言われている地帯です。雨季、乾季にかかわらず、霧によって湿度が保たれています。当然雨期になると毎日のようにスコールがやってきて滝のような雨を降らせます。また乾期になると頼るのは霧による湿度です。人間には快適と言えるかどうかわかりませんが、確かに低地よりは過ごしやすいようです。胡蝶蘭、バンダのような高温種をのぞいては、ほとんどの低中温種はこのような雲霧林に自生しています。ただ誤解のないよう注釈しておきますが、胡蝶蘭はほとんどが低地の樹陰の谷間に着生しています。ですから、直射光線には弱い性質があります。
バンダは太陽光線のよく当るところを好んで、自生しています。このように同じ高温種でも住み分けがあるのです。
ですから蘭を栽培しようとする場合には、その辺の事情を確かめて栽培したほうが失敗するにしても、納得がいくのではないでしょうか。もう一度チャレンジする気にもなると思います。
それから、何故洋蘭はこんな小さな鉢に植えてあるんですか?これじゃ根詰まりですよね?と聞かれることがあります。
わたしは、鉢が小さいと鉢内の代謝が良いと言っています。蘭の根は成長期には水も好みますが、空気も必要なんです。大きい鉢で毎日水をやったらどうでしょう。その日に乾くのは無理だと思いませんか。内部にたまった老廃物や、古い空気は入れ替わりやすいでしょうか?超過湿、古い空気、これはフザリウム等の嫌気性の腐敗菌の温床です。根腐れの原因です。小さい鉢の場合、上部のウオータースペースに溜まった水が、徐々に内部の古い空気を鉢底から押し出し、さらに、上部から新しい空気を自然に供給することが可能になります。当然鉢が小さい分、乾きやすいということになります。腐敗菌も住みにくくなります。
もう一つ、大変重要な生育の要素があるのです。 ご承知のように、蘭は蘭菌といわれているカビの一種と共生関係にあります。自然の中で発芽するかしないかは、この蘭菌がいるかいないかに関わっています。幸運にも蘭菌のいる場所に落ちた種子だけが、発芽できるわけです。当然、それ以外にも環境が整っていることが重要ですが。 発芽以降の成長にも蘭菌の重要な役割があります。こんなことに言及している文献が見当たらないのは寂しい感がありますが・・・。自説として記述しておきます。
蘭菌の生息している蘭の部位は根の先端いわゆる根冠と言われている部分です。成長点と呼ばれています。その内部に生息し核を作っています。前述しましたが蘭菌はカビの一種です。ですから核より菌糸を外部に出し、鉢内の養分を核に蓄えます。その核を水と一緒に蘭は吸収して成長します。蘭菌は活発に細胞分裂をしますので、絶えることはありません。ご心配なく。蘭菌が活発に活動できるのは12℃前後から22℃前後といわれています。当然空気も必要です。 皆さんは水餅というのをご存知でしょうか?餅にカビが生えるのを防止するために、餅を水に浸けて保存する方法です。カビは水の中では繁殖しにくい性質をもっています。蘭菌も超過湿の中では繁殖しにくくなるのです。ある程度の湿度と、新鮮な空気が蘭菌の成育、言い変えれば蘭全体の成長が良くなるのです。蘭の根が空気が好きだと言われているのは、この辺の事情があるからだと思います。 空気の流れいわゆる通風も重要です。植え込み材料を乾かしたり、太陽光線で熱くなった葉の表面の温度を下げたり、風も重要な働きをしています。 風のない時は扇風機などで風を送ってあげたいものです。 雲霧林に生育している蘭が多くあるということは、日本の夏は蘭にとっては暑い地獄に等しいことなのです。とにかく夏越しができれば、ほとんどの蘭が栽培できることにつながるわけです。そのためには・・・
* 太陽光線は、好光線種(デンドロビウム、バンダ、カトレア等)を除くと、夏は50%〜75%遮光する。その時期以外は50%程度がよいでしょう。
* 風は、一年を通して常にあったほうが良い(夏は不可欠)
* 水は3月〜4月成長が始まったら徐々に増やす、この時期は朝のほうが良いでしょう、太陽光線が強くなったら(地域によりますが・・)夕方以降に水を頭からかけるようにします。 バークや礫植えの場合、ほとんど毎日、水苔の場合はコンポストの状態を見てくだい、乾いたら水をあげてください。但し、朝はやらないほうが良い。新芽に水がたまって気温によっては湯のようになって組織がダメになってしまいます。
* 肥料は新芽成長が安定してから施します。回数は月1〜2回程度、成長に合わせて10日に一回と回数を増やしていきます(濃度は1000倍〜1500倍程度)。8月の盛夏にはやらないことです。9月以降、秋風が吹き始めるころから施肥を開始します。成長期は窒素分の多いものを使用します。秋以降はリン酸、カリの多いものを使用します。10月からは成長に合わせて回数を減らし、成長が終わったと感じたら施肥は中止したほうが無難です。
* 消毒について、私は通常月に、二回程度行っています。 殺虫剤、殺菌剤、そして殺ダニ剤をミックスして散布しています。 冬に入る前は、よくカイガラムシが発生します。ついたものは、古い歯ブラシ等でこすり落とします。その後は直ちに消毒するようにしています。また、ダニが発生した時は、1週間ごとに2度消毒しています。ダニの卵には薬が効かないので、1週間後に卵から孵化したダニにもう1度殺ダニ剤をかけると効果的です。
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